昨日は星がキレイでした。部活帰りの息子と同じ中学校出身の

友人二人をいつものように迎えに行きます。

季節はもうあの停電の日のような

幻みたいな夏を連れてくることは

ないのでしょう。

練習で火照ったままの身体を

冷まそうとする息子が徐ろに

車のヒーターのスイッチを

クーラー側に回してから、

それでもその送風の

切り替えの速度を待てずに

窓を開け放ちます。

マイナス10度の外気温が

一気に車中を駆け抜けます。

今日は星がすげー!

息子がそう叫ぶと、

友人の女のコが

あの停電の日もすごかったよね。

私、あんなに大きい流れ星

見たのはじめて!

と隣にいるもう一人の男の子に

言いました。

オレ、あの時見れなかったんだよなー。

そうだよね。男子はみんな

スマホのゲームに夢中だったもん。

停電の夜の日に、

どうやら息子以外の同じ中学校の

同級生同士で集まったらしいのです。

二人がその日のことを話している間、

息子は終始無言でした。

彼女たちをそれぞれ

家の前で降ろしてから

息子が笑いながら呟きます。

オレ、とうとう同中のやつらに

嫌われたのかな。

あの話、全然知らなかった。

まあ、オレ。同中のグループLINEから

抜けちゃったからなあ。

私はこないだ

中学校時代の同級生の女の子に

息子が振られたことを思い出しました。

しかし、そのことを私は知らないことに

なっています。

グループLINEから勝手に

抜けたから、

誘えなかっただけじゃないの?

まあ、そうだよね。

しかもオレ、あの子の友達登録も

外しちゃったんだよな。

私が知っていることを知らないはずなのに

息子は自分から、振られたことを

なんとなく私に言っているのだなと

思いました。

気を使ったんだろ。周りがさ。

仕方ないよ。

うん。

別にいいじゃん。

誘われたかったら、誘って欲しいって

言うしかないし、

自分がまだ気まずいのなら、

無理することもないんじゃないの?

うん。そうだね。

正直まだ、話したくないから。

息子はそう言って、

寂しそうに笑いました。

きっと少し前までの私なら、

振られた女の子に返事もせずに

勝手にLINEの友達登録を

消したことを

男らしくない!とか、

振ることはその子の自由なんだから、

おまえがそうすることで、

その子は二重に傷つくんだぞ!とか

言っていたと思います。

私はその子の母親から

振った理由や振ったことで

息子と友達として

付き合えなくなるかもしれない

彼女の不安な気持ちのことも

聞いていましたから。

もちろん、そう言いたい気持ちは

すごくありました。

しかし息子は私の唯一無二の息子で

あるのでした。

言いたくないことを私に

遠回しでも告げたことは

気持ちの共感を求めたからなのだろうと

思い直したのです。

自分と友人が振られたときには

ざまあみろ!と叫んで

大笑いしておきながら、

自分が振られたときには

そのチンケなプライドを崩されて

二度と口を聞かない!と言うように

繋がりを遮断する。

その方がもっと情けないことにも

気付きながらも抗えない。

どんなにいい人として

振る舞っていても、

センスが良くても、

頭が良くても、

スポーツ万能でも、

顔がイケメンでも、美人でも、

毎日仲良く話ができていたとしても、

それがお互いに同じ気持ちの形を

持って、

接し合えているわけではないこと。

恋愛というものは、

なんて残酷な事柄だろうなあと

改めて思うのです。

家に辿り着いて、

夜空を見上げた息子が

言いました。

あの停電の日。

この空よりずっとたくさん

星が見えたよね。

おかん、ずっと外にいたけどさ。

オンナって、星とかそういうの

よくずっと見ていられるよな。

まあ、オトコは星よりも、

ゲームと女の子の裸の方が

好きなんだろうけどね。

あんたさ。すぐ、

そういうこと言うなよ。

気持ちわりーな。

気持ち悪いってなんだよ!

これは、大事なことなんだ。

男と女もそうだけど、

みんな感じ方が違うってことだろ。

あーあ。オレ、早くメシ食わないと。

友達とゲームする約束してんだった。

あ!あんた、オレがボイチャしてるときに

勉強したのか?とか

ぴーちゃんのエサ取り替えろ!とか

叫ぶのやめろよな。

おまえがすぐやらねーからだろ!

言われたくねーなら、

やることやってから

ゲームしろや!このクソガキが!

親子喧嘩はもはや習慣だ。

甘い血が成せるコミュケーションだ。

それは私がコイツが

何をしたとしても

自分だけは赦してしまうという

母親の悲しい鎖があるからなのだ。

人と人との関係は、

そういう場所からしても

不平等なのだった。

愛は特定の者に向けられる。

愛するものと愛していない者がいて、

その間で揺れて、迷って、

様な感情に翻弄されながら、

みな自分だけの物語を

生きている。

それでもきっと少しは。

一緒に見たい気持ちも

息子にはあったんだろうか。

あの停電の日の孤独を

慰めるような無数の星の瞬きを。

その先、

彼女に好かれることがなくても、

振られたことをみんなが

たとえ、知っていたとしても。

またみんなで一緒にいられる

きっかけを

本当は探してもいるのだろう。